介護を仕事にするということ

ひまわりの戯言

私が新卒で初めての介護施設に就職したばかりの頃、新人のオリエンテーションで会社のお偉方よりこんなお話がありました。

「家族のような関わりを目指す人をよく見かけますが、それは間違いです。」

「あなたたちがこれから関わるご利用者様は、お客様であることを忘れないでください。」

前後の内容をはっきりと記憶できていませんが、まさしく家族のような暖かい関わりがしたいと思っていた当時の私は、「仕事」を前提として介護をするなんて正直冷たいなと感じていました。

その時のお偉方の趣旨とは少し異なるかもしれませんが、当時のその方の言葉を、今なら理解することができます。

お金にも制度にも捉われず、居宅などで家族や身内を介護することと、介護職として金銭の授受や制度の上で介護サービスを提供することは、介護という行為は同じでも意味や内容は異なります。

冷たく聞こえるかもしれませんが、薄情な意味ではありません。

大切な家族と関わるように、心を込めて相手と接し、寄り添う必要があることは言うまでもありません。

しかし、それ以前に責任が伴います。

特に介護保険を通して介護を受ける方に対する介護サービスを提供する場合です。

厚生労働省は、介護保険制度の基本理念や目的について、次のように提示しています。

介護保険制度の基本理念は「自立支援」、すなわち、高齢者が自らの意思に基づき、自らの有する能力を最大限活かして、自立した質の高い生活を送ることができるように支援することである。

厚生労働省 「基本理念から見た課題」

この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保険医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。

厚生労働省 介護保険制度全体を貫く理念 第一章 総則 (目的)

つまり、目の前のお一人おひとりが、ご自身の持つ能力を最大限発揮し、本人の望む必要なサービスを、自立した生活の実現を目的として提供する必要があります。

そのためには、介護に関する様々な制度や、介護技術や対人援助技術をはじめとする専門的知識や技術、経験が必要となります。

介護という行為そのものが決して簡単なものではありませんが、仕事として介護を行うということは、もっと複雑で、責任の伴う価値のある行為です。

その先で得られる達成感や幸福感は、非常に素晴らしく魅力的です。

そもそも介護を仕事として提供する私たちは、何の対価として賃金をいただくのでしょうか。

介護技術に対してでしょうか。排泄や食事、入浴などの様々な介助、レクリエーション等でしょうか。

私は介護技術や対人援助技術を持ち合わせた、その人そのものの存在またその人の心だと思っています。

どんなに温かい心いや人間性を持っていても、介護に関する知識や技術がなければいい介護はできません。

しかし反対に、どれだけ素晴らしい介護技術や豊富な知識を持っていても、介護を必要とする方に対する思いや心がなければいい介護はできません。

言い換えれば、「自分らしさ」や人を思いやる気持ち「人間性」を仕事として活かすことができる職業です。

技術や知識は、時間をかけて経験を積み、学び続けることで、個人差はもちろんありますが習得し、活かすことができるでしょう。

そんな技術や知識よりもまず必要になるのはあなたの人となり、心です。

元々あなたが持っている「あなたらしさ」や温かい心」が仕事の素晴らしい材料になるのです。

あなたの人としての強みは何ですか?

他の人からどんなことを褒められたことがありますか?

笑顔がいい、優しいと言われたことはありませんか?

あなたという人間そのものと、温かい心を最大限に活かしながら、介護を必要とする方自身の能力も引き出すことのできる技術や知識を習得し、仕事としての介護の魅力を味わっていっていただきたいと思います。

タイトルとURLをコピーしました