介護現場にある、あたり前を喜べる感動。

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先日、仕事で嬉しいことがありました。


ある一人のご利用者様がいらっしゃり、介護現場では珍しく、入居されてからどんどんできることが増えているご高齢の女性です。

高齢、と言っても、ご年齢は私の施設の中では若い方ですが。

完全に寝たきりの状態で3年程前に入居され、当時は臀部に大きな褥瘡も抱えておられました。

排泄に関して、これまで常時オムツ対応、褥瘡の治療の兼ね合いでバルーンも留置されていました。

ベッドから車椅子への移乗も、二人介助の全介助。
大きなスライディングボードを使用していました。

それから徐々に生活リハビリを頑張ってこられ、年単位の時間をかけて移乗は一人介助となり、ここ数ヶ月で見守りでの移乗が可能となりました。

褥瘡もほとんど治癒し、バルーンも抜け、オムツ内への排尿が確認できるようにもなりました。

文章にしてぎゅっとまとめると簡単なことのようですが、その過程でも沢山の感動を私に与えてくださった方です。

もちろん、我々介護職は、ご利用者様の生活の質の向上を目指して援助をさせていただいています。

しかし、実際の介護現場では、特に要介護者のみを対象とする24時間体勢の介護施設では、「現状維持」が精いっぱいの方がほとんどなのが現実です。

それだけ、「よくなった」「できるようになった」に出会うことがなかなかありません。

病院にご入院されたのち、施設入居を検討してご入居に至る方が多いので、入居時と比べて身体機能の向上がみられることはそれなりにありますが。

ある程度施設での生活が安定すると、計画書に立てる目標でも「維持」という言葉が多くなりがちです。

そして、それだけ「できるようになるかも」という瞬間をサポートするには、それなりの勇気が必要だったりします。


今回、たまに入る現場業務の中で、久しぶりに排泄介助をさせていただいたときのこと。

いつもは下剤の服用で排便がみられるこの方の滞便が続き、坐薬を使用してもなかなか出そうででなかったことから、トイレに座ってみることをご本人様に提案してみました。

はじめは「無理無理!立てないし!」と拒否されていましたが、トイレに設置できる手すりなど、福祉用具の追加利用も提案し、別日になり、いざチャレンジしてみることに。

最初は、現時点でどこまでできるか、状態をみて一緒にトイレの利用に向けてリハビリを考えてみましょう、ということでいざ試してみたのですが、
なんと1回目でしっかりトイレに座ることができました。

正直、できるはず、と見越した私もびっくりでした。

いわゆる、手すりにつかまって立ち上がり、くるっとまわって便座に座る、といった通常の動作はまだできません。

しかし、本人様なりに工夫され、できることに積極的に取り組んでくださり、試行錯誤しながら達成できたトイレ利用の瞬間でした。

しっかり、排尿も排便もみられ、これがまた感動です。

しかも、普段下剤を使用しないとなかなか排便がみられないにも関わらず、トイレに座って腹圧をかけられたことで、下剤なしでしっかりと普通便を確認できました。

これには本人様もさらにびっくりです。

はたから見れば、普通に数年前までトイレに座っていた人が難しくなり、オムツに排泄していた人が、またトイレで排泄ができるようになった。

ただそれだけのことです。

私たちは毎日トイレを利用し、それはあたり前の日常です。

そんなあたり前なはずの行為が、こんなにも人に感動と喜びを与えてくれる。

私にとって、改めて介護を好きになれた瞬間でもありました。

ただ、このときの私の喜びはこれだけに終わりません。

本人様も、トイレで排泄できたことに喜んでおられ、その後向かった食堂で、他のスタッフたちに「さっきトイレに連れて行ってもらって排泄ができた」とニコニコと報告している姿に、とても嬉しくなりました。

すぐに現場の皆さんにも共有しましたが、やりたいけれどこの方がトイレに行っている姿が想像できず、実際に行けるところを見せてもらいたいとのこと。

それくらい、「トイレ、ほんとにいける!?」という程の経過でした。

この日から数日が経ち、私もなかなか現場に入れない日が続き、その間に依頼していた福祉用具も到着しました。

そして、なかなか複数のスタッフさん一人ひとりにお見せできる時間を確保できずにいる私に変わり、多忙ながらも現場を支えてくださっているサ責さんにまずは見てもらおう、それから皆さんに伝えてもらおう、と事前に約束して時間を作っておいてもらいました。

約束の時間になり、そのサ責さんに先に準備しておいてもらって後からその方のお部屋に駆けつけると、約束を聞いた他のスタッフさんたちが一緒に待ってくれていました。

「私も見させてもらっていいですか?」「見本見せてくれると聞いて」と、排泄の時間は終わっているにも関わらず、皆さんそれぞれ自分の仕事ややりたいことがあるにも関わらず、時間を割いて見に来てくださったことがまず、とても嬉しかったです。

そして、実際にトイレを利用するその方の姿をみて、決して広いとは言えない小さなお部屋の中で、沢山の拍手が巻き起こりました。

本人様も、今回初めてトイレに座った時の何倍も嬉しそうなお顔をみせてくださいました。

これはもう、涙レベルの感動です。

それから、ある一人のスタッフさんの一言。

「利用者さんが頑張ってできるようになる姿を見ると、こっちももっと頑張ろうと思えます」
「元気もらいました、〇〇さんいいところを見せてくれてありがとう」

と、このご利用者様にお声をかけておられました。

正直、今までオムツ対応だった方をトイレにお連れするということは、それだけ時間も要します。

楽かどうかで比べてしまうと、オムツをベッド上で交換する方が楽です。

それでも、迷わず明日からトイレ行きましょうね!と言ってくださる現場の皆さん。

トイレに座れる、ただそれだけと言えばそれだけのことを、一緒に喜んでくださる皆さんがいること。

本当にいい時間で、大きな喜びを分けてもらいました。


もちろん、何か新しいことにチャレンジすることは、それだけリスクも伴います。

それだけ勇気も時には必要になりますが、こういった現場でのチャレンジだけでなく、今、新任の施設長として、日々チャレンジの毎日です。

現状をただ維持するだけでも精いっぱいではありますが、問題や皆さんの要望に目を背け、規定通りのことをただこなすということは、それほど難しいことではありません。

新米施設長として、介護福祉士として、もっといい方向に向かっていけるように、時には勇気をもって、これからもチャレンジしていきたいと思います!

施設長としての事務処理や管理に少し行き詰まっていた今日この頃でしたが、今回のこの体験が、そんな気持ちにさせてくれました。

日々課題や問題は尽きませんが、ぜひ皆さんの施設の感動エピソードも聞かせてください!

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