『森にあかりが灯るとき』を読んで。

ひまわりの日常

一言でまとめると、介護現場にある問題と、魅力が満載の一冊でした。


私は普段、同じ作家さんの作品ばかりを読んでしまいがちです。

そして、本には単行本と文庫本がありますが、単行本を持ち歩くのは億劫で、所持している本は圧倒的に文庫本が多いです。

しかし、先月初読の作家さん数名との出逢いがあり、視野を広げてのんびり本屋さんをウロウロしていたときのこと。

普段あまりゆっくり見ることのない単行本コーナーで、気になる一冊の本が目に留まりました。

『介護の現場に光の種を蒔く努力をしたい』

手に取った瞬間、レジ行き確定でした。

藤岡陽子さんの作品を読むのは初めて…とこちらの作品を読み終えるまで思っていましたが、『手のひらの音符』という作品を過去に拝読したことがありました。

ほんど一日で本日読み終え、この記事を書かずにはいられず、ホカホカの気持ちのまま、今PCを開いています。


物語のあらすじ

この物語の舞台は、「森あかり」というユニット型の特別養護老人ホーム。

そこで働く元芸人の新人介護職員の主人公、
周りになかなか理解されずとも、自分の信念を全うする施設に常駐する医師、
過去に利用者遺族に訴えられた経験のある、介護に熱意を持った施設長。

それぞれがこの施設の中で、利用者やその家族、働く職員や介護に対する自分自身の想いと向きあいながら、施設内で起こる不可思議な事件や忙しない日常を乗り越えていく物語。

物語の中でテーマとしてとりあげられているのは、大きく分けて、

介護施設における看取り対応の在り方について、
家族と利用者の延命希望に対する意志の相違、
介護現場の深刻な人手不足問題、
介護の担い手、ロボットやAIの導入について、
それから、介護従事者の介護に対する魅力とは。

読み進めながら、他人事ではないドキッとするような問題提起たちです。

そうそう、あるある、と心から共感できる介護現場の描写や、ジンと胸が熱くなる、介護が持つ魅力を再認識できる瞬間も沢山ありました。

大抵の小説に読了後「出逢えてよかった」という感情を抱きますが、今回は特別そう思うことができました。

そして、一人でも多くの、介護従事者に手に取ってもらいたい。

「ベテラン」と呼ばれる長年介護現場に従事してこられた方にももちろん、介護を始めたばかりの新人介護職員の方には特に、一度読んでもらいたいと思いました。


読み終えた感想

施設長というありがたい役職をいただいてからより一層、ご利用者様お一人おひとりの人生や生き方について考えることが増えました。

今の対応が本当にこの方のためになっているのか?

ここでの生活がこの方の人生にどれほどの意味を与えられているのか?

そして、最期の迎え方、命の終わりを思い描いたときの意向の確認、看取りに対する本音とは?

これらは介護福祉士として生きる一人の人間として、永遠の課題なのではないかと思っています。

それらにきっと、正解というか問いに対する答えは用意されていません。

どれだけ考えても、どれだけ向き合っても、結局終えたあと、「これでよかったのか?」という感情は残ります。

でも、一緒に考える時間、しっかり向き合う時間、そこにこそ意味があるのだと思って大事にしているつもりです。

まだまだ経験や知識が不足しているなりに、ですが。

ただ、今回この本を読んで、これからもしっかりじっくり考え続けていきたいと思いました。

そして、介護という行為を通して、また施設という環境を通して、出逢ってくださるお一人おひとりの「あかり」になりたい。

どれだけ介護を愛しても、それを受けてくださる方にとって、介護施設はいつでも明るい場所、ずっと楽しい場所、ではないことでしょう。

介護を必要とするということの中には、苦難や悔しさ、もどかしさといったネガティブな感情は少なからずあり続けるものだと思います。

少ないどころか、常に暗い森を歩くような景色の中で生活されている方もいらっしゃるでしょう。

もちろん、少しでも楽しんでもらったり、日々を明るいものにしたいと願って努力している介護従事者は少なくありません。

私もその一人でいるつもりです。

そして、そこにこそ確かな「介護の魅力」があります。

しかし、介護現場が抱える問題と表裏一体なのが実際です。

魅力を実感し、広げていくためには、解決しなければいけない問題が山ほどある。

それは、その時々に起こりうるものだけでなく、施設や会社単位ではどうにもできない問題まで本当に様々で、多岐に渡ります。

ただ、逆の言い方もできます。

どんな理由であれ一度は介護に従事することを志した人が問題に直面して魅力を得られなくなる一方、介護が持つ魅力が、離れていく心を引き留めたり、または引き戻したり、介護に希望を与えてくれる。

時には利用者にとって暗い森である介護現場に、あかりを灯すことができる。

わたしもあかりで居続けたいし、今わたしの介護に対する心にあかりが灯っているのは、確かなあかりのある景色の中で介護と関わり続けてこられたからです。

そうしてあかりはきっと、連鎖します。

介護をする人、必要とする人、依頼する人、関係なく。

そのために、問題や課題と向き合い続けたい。

そして、みんなが向き合い続けるためにも、是非この一冊の物語を読んでもらいたい。

これが私の『森にあかりが灯るとき』を読み終えた当日の感想です。

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