人間らしさを伝える認知症ケア ユマニチュード

介護技術

「ユマニチュード」という言葉をご存じですか?

ユマニチュードとは「Humanitude」と書き、“人間らしくある”という意味を表す、フランス語の造語です。

認知症ケアの新しい技法として、近年注目を集めています。

介護職として日々仕事を行う上で、尊厳を持って人間らしさを伝える、より良いケアを実践できるよう、ユマニチュードという技術をぜひ身に着けていきましょう!

介護福祉士9年目。
現サービス提供責任者。
介護支援専門員資格取得済み。
中学の頃からの夢だった介護福祉士。
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介護業界の現実や問題と向き合い、
介護の魅力や情報を発信するべく
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ユマニチュードとは

ユマニチュードは、フランスの二人の体育学専門家、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが1995年に開発して定義づけた、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションに基づいたケアの技法のことです。

「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学と、それに基づく実践技法から成り立っています。

ユマニチュードは認知症ケアに限った技術ではありませんが、認知機能が低下し、身体的にも脆弱な高齢者の方々に対してケアを行う現場から生まれた技法で、特に認知症の方に対するケアの場で活かされる技法のひとつです。

ユマニチュードケアでは、様々な機能が低下して、介護という行為を通して他者に依存しなければならない状況になったとしても、最期の日まで尊厳を持って暮らし、その生涯を通じて“人間らしい”存在であり続けることを支えるために行います。

そのためには、ケアを行う人がケアの対象者に「あなたのことを、わたしは大切に思っています」というメッセージを伝え、“人間らしさ”を尊重し続ける状況こそがユマニチュードの状態であるとされています。

ユマニチュードの4つの柱

認知症を患う方のケアは時にとても複雑ですが、穏やかにケアを受け入れられる場合と、激しく拒絶される場合がありますよね。

イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティは、それらの違いは「見る方法」「話す方法」「触れる方法」にあると言い、それに気づいたことが始まりとされています。

また、人は「立つ」ことによって、“その人らしさ”を感じられ、人としての尊厳が保たれるとうたいました。

あなたのことを大切に思っているというメッセージを伝え、人間らしさを尊重するために必要な「見る」「話す」「触れる」「立つ」をユマニチュードの4つの柱とし、この柱を同時に複数組み合わせて行うことが大切です。

それでは、それぞれの柱についてみていきましょう!

ユマニチュードの「見る」

ポジティブな「見る」とネガティブな「見る」

「見る」という行為が相手に与えるメッセージは、大きく分けて2つあります。

正直・信頼・優しさ・親密さ・愛情・肯定など、ポジティブなメッセージを与える場合と、支配・見下し・恐れ・自信のなさ・攻撃・否定など、ネガティブなメッセージを与える場合です。

ユマニチュードでの「見る」では、当然前者のポジティブなメッセージを与える「見る」を行います。

そのためには、水平な高さで、正面の位置から、近い距離で、時間的に長く相手を見ることを心掛けましょう。

介護現場で実施する上で、車椅子に座っておられたり、ベッドに横になられている場合が多く、水平な高さ、正面の位置ということが難しい場合が多いです。

上からの視線にならないよう、しっかり体勢を調整して目線を合わせましょう。

また、「目が合ったら2秒以内に話しかける」ことに注意する必要があります。

どんなにポジティブな「見る」行為でも、何も言わずじっと見つめると恐怖や攻撃といった印象を与えてしいかねません。

適切な高さ、位置、距離から目線を合わせ、目が合ったら2秒以内にそっと話しかけてみましょう。

「見ない」ことは「いない」ことと同じ

特に認知症の方をケアする場合、目を見ずに関わるということは、存在しないというメッセージを発していることと同じです。

そんな態度とるわけない…と思っていても、忙しい毎日のケアの中で、つい背中を向けてご利用者様に話しかけたり、目を合わせないまま機械的な声掛けでケアを行っていることはありませんか?

ユマニチュードでは、ベッドで寝たきり状態にある方に対し、ベッドを動かしてまで目線を合わせに行き、「わたしの目を見てください」とメッセージを伝えます。

「あなたの存在を認めていますよ」というメッセージを発するための「見る」という行為は、人としての存在とその尊厳を確認するための行為となります。

ケアを行う方の正面から近づき、視線をつかみに行くこと、そして相手の司会の中に入るように、相手の視線を常に捉えるよう意識してみましょう。

ユマニチュードの「話す」

「話す」という行為で大切にすべきなのは「声」と「言葉」です。

「声」のトーンは優しく、歌うように、穏やかにを意識しましょう。

口から発する「言葉」は愛情深く、優しさを込めた、相手の尊厳を認めた表現を意識します。

声のトーンと言葉の選び方次第で、たとえそのつもりがなくても、相手に攻撃や怒り、傲慢と感じさせてしまいかねません。

適切だと思う声や言葉で話しかけてもいい反応が見られないときは、話し方や言葉を変えてみましょう。

また、最も悪いことは、無視をして話しかけないことです。

「見ない」ことは「いない」ことであるのと同様に、「話しかけない」ということは「いない」ことと同じことになってしまう場合があります。

私たちがケアをさせていただく皆様は、寝たきりで発語が難しい方や、認知症により話しかけても返答することが難しい方も沢山いらっしゃいますよね。

話しかけても反応がないと、だんだん話しかけなくなるのは自然なことでしょう。

しかし、「話す」ということは「ここにいる」ということを相手に伝え、ユマニチュードの絆を結ぶことに繋がります。

オートフィードバック技法

コミュニケーションの原則として、一方がメッセージを送り、もう一方が言語あるいは非言語による返答(=フィードバック)を返すことでコミュニケーションが成り立ちます。

つまり前述のように、ケアを行う場面において、話しかけても何のフィードバックもなければ、一方通行になりコミュニケーションを続けることができません。

そこでユマニチュードでは、「オートフィードバック」という技法を開発されました。

送り手がコミュニケーションを続けられるように、オート、つまり自分でフィードバックを作り出します。

ケアを行う行為そのものを、「ケアを受ける人へのメッセージ」と考え、言葉にしてみましょう。

つまり実況中継を行うようなものです。

相手と良好な関係を築くためのポジティブな言葉を添えることを忘れず、ケアの予告と実況中継(フィードバック)を繰り返します。

ユマニチュードの「触れる」

「触れる」は不快な行為?

「触れる」にも、ポジティブな「触れる」とネガティブな「触れる」があります。

ポジティブな触れ方は、「優しさ」「喜び」「慈愛」「信頼」が伝えられるよう、「広く」「柔らかく」「ゆっくり」「包み込むように」行い、優しさを伝える技術です。

介護現場では、排泄介助や入浴介助、口腔ケアなど、人が不快を感じやすい行為が多々あり、「不快は伴うが、必要な行為」が多く存在しています

認知機能が低下すると、自分と周囲の状況を理解することが難しく、「必要な行為」という認識がないまま、ただ単に「不快な行為」だと感じさせてしまう場合があります。

私たちは介護のプロとして、それらを理解した上で「広く、優しく、ゆっくり」触れることを意識していきましょう。

また、軽すぎるタッチは性的な印象や「触りたくないものに触っている」という印象を与えてしまいかねないため、一定の重みをかけて触れます。

「広く」触れるためにも、指先だけでなく、手のひら全体で触れるよう、指を開いて包み込むように行ってみましょう。

適切な「触れる」イメージの描き方

「広く、ゆっくり、優しく」触れることはユマニチュードにおける「触れる」技術の基本となります。

その目安として、「移動をサポートする際、10歳の子ども以上の力を使わない」「体のある部分を動かす際、5歳の子ども以上の力は使わない」ことを意識するといいとされています。

私は初めてこの目安を学んだとき、イメージが描きやすくとても印象に残りました。

また、触れるときは飛行機の離着陸をイメージし、触れるときは着陸のイメージ、手を放すときは離陸のイメージをしてみましょう。

皮膚から伝わる感覚の情報

人の皮膚に触れると、大脳の体性感覚野が刺激され情報として伝わりますが、手や顔、唇からの情報が大脳の体性感覚野に占める割合が大きい一方で、体幹や上下肢からの情報が占める割合は小さくなります。

つまり、同じ力、同じ面積で触れたとしても、背中や肩、腕などに触れる場合よりも、手や顔に触れた方がより多くの情報が脳に届いているということです。

そのため、ケアを行う場合はいきなり顔や手に触れるのではなく、上腕や背中などの部分から触れることで、スムーズにケアを開始することができると言えるでしょう。

ユマニチュードの「立つ」

立つことの意味

人は生まれてから初めて自分の力だけで立ち上がった時、ポジティブで誇りに満ちた感情を覚えます。

立つことでひとりの人間であることを認識し、人間としての尊厳となるなど、人間の尊厳は「立つ」ことによってもたらされる側面が強いと言われています。

また、生理的な側面においても、立つことで筋力の低下を防ぎ、血液の循環状態を改善するだけでなく、肺の容積を増やすことで呼吸器系にも良い影響を及ぼすことができます。

いかに立位を組み込めるか

介護現場において、もちろん筋力が低下してしまい、どうしても立位をとることが難しい方はいらっしゃいます。

その一方で、本来立つことができるのに、立つ機会を持つことなくケアを受けている場合も多くあります。

介護職が本格的なリハビリテーションを行ったり、わざわざ立つリハビリの時間を確保することは難しいでしょう。

しかし、入浴介助や排泄介助、着替えや洗面など、介助内容を工夫することで、日常的な生活行動の中に立位を組み込むことはできないでしょうか?

「自分は立てるんだ」と認識し、人間としての自信と誇りを取り戻していただけるよう、意識してケアの中に立位を組み込み、立つ機会を提供してみましょう。

立位介助をするときの注意点

ユマニチュードの「立つ」を行うために立位をとっていただく際、注意すべきことがあります。

それは、足の裏で自分の体重を支えていただくこと、介助で身体を持ち上げてしまわないようにすることです。

身体を持ち上げてしまうと本来の体重よりの少ないものとなってしまい、指令を出す脳が混乱してしまいます。

身体を持ちげず、「体を持っていますよ」と言わないようにしましょう。

背もたれがあるという情報を与え、それに頼ってしまわないようにするためにも、できるだけ背中には触れないようにします。

自分の力を最大限に使っていただき、立つために必要な知覚情報を奪わない介助方法を学んで実践していきましょう!

心をつかむ5つのステップ

ケアを行う「あなた」の存在に気づいてもらい、「良い時間を過ごせる」と感じてもらうための効果的なアプローチがあり、ユマニチュードでは、このアプローチを行うステップを5段階に分けて定めています。

もちろん成功率は100%ではありませんが、認知症と診断された方の多くがケアを穏やかに受け入れられるようになり、向精神薬の使用量が減少したという報告があげられています。

①出会いの準備

出会いの準備は、自分が来たことを知らせ「ケアの予告」を行うプロセスです。

自分の来訪をノックで知らせ、反応を待ちましょう。

扉がない場合や大部屋の場合は、ベッドの足元のボードをノックします。

②ケアの準備

ケアの準備は、ケアについて合意を得るプロセスです。

合意のないまま行うケアは「強制ケア」となってしまい、強制ケアを行わないことは、ユマニチュードの基本理念です。

このプロセスで大切なことは、3分以上時間をかけないことです。

3分以内に合意が得られなければ、一旦あきらめて出直しましょう。

ユマニチュードの実践結果では、およそ90%が40秒以内に合意を得られたと言われています。

「ケアをあきらめる」ということは、勇気や組織の理解も必要となりますが、ケアを必要とする方に嫌な思いをさせないためにも、この後の「⑤再会の約束」に移り、時間を空けて始めからやり直しましょう。

合意が得られたら、ユマニチュードの「見る」「触れる」「話す」の技術を実践し、最初からケアの話はしないことを心がけてみてください。

③知覚の連結

ケアを行う上で最も重要なプロセスです。

ポイントは2つ、

 1.常に「見る」「話す」「触れる」のうち2つ以上を使うこと

 2.五感から得られる情報は常に同じ意味を伝えること  です。

五感の中でも特に視覚・聴覚・触覚の3つの感覚へポジティブなメッセージを同時に伝えることにより、人は心地よく感じられます。

これをユマニチュードでは「知覚の連結」と呼びます。

少し極端ですが、優しい笑顔できつい言葉を話す、柔らかい表情と穏やかな声で強く腕をつかむ、と言ったケアを行っていることはありませんか?

「見る」「話す」「触れる」に合わせて、「あたたかい笑顔」「穏やかな声と柔らかい言葉」「優しい触れ方」を同時に用いることを意識してみてください。

④感情の固定

ケアが終わったあと、「この人は嫌なことをしない」という感情記憶を残していただくためのプロセスです。

次回のケアに繋げるため、2人で今行ったケアを想起しましょう。

ケアの内容、身体の動きなど、ご利用者様自身、一緒に過ごした時間を、ポジティブな言葉で前向きに評価します。

⑤再会の約束

最期のプロセスは再会の約束をしてからそばを離れましょう。

例え記憶することが難しい方であっても、とても大切なプロセスです。

記憶がなくても、言葉の内容の理解が難しくても、「何かを誰かが約束してくれた」と感じられるだけで、社会とのつながりを実感できる場合があります。

了承を得られた場合は、次の約束を書きとめてお渡しすることも効果的です。

まとめ

・ユマニチュードとは、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティにより定義づけられた、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションに基づいたケアの技法のこと。

・ユマニチュードの4つの柱とは、「見る」「話す」「触れる」「立つ」

・心をつかむ5つのステップとは、①出会いの準備→②ケアの準備→③知覚の連結→④感情の固定→⑤再会の約束のプロセス

認知症ケアに活用される「ユマニチュード」いかがだったでしょうか。

実際の介護現場はとても忙しく、したいと思っていても、なかなかご利用者様とゆっくり関わる時間がとれず、理想と現実の差を感じてしまうこともあるのではないでしょうか?

思いを持てば持つほど、もどかしい気持ちになってしまうこともありますよね。

しかし、特別長い時間をかけなくても、難しい技術を身につけなくても、普段のケアに少しの工夫とユマニチュードの知識を加えるだけで、ご利用者様の状態に良い変化がみられるということが、ユマニチュードの実践結果からわかります。

介助すべてにおいて実施することが難しくても、一日の中でまずはお一人に対してだけでも、あるひとつのケアに関してだけでも、ぜひこれらの技法を思い出して実践してみてください。

介護を行う上で、様々な技術が必要とされます。

しかし、ケアを行うあなたのあたたかい心と優しい笑顔は、何よりも大切なケアの材料です

それらをしっかりと相手に伝え、活かすためにもこのユマニチュードという技法を身に着け、人間らしさを伝えるケアを日々の介護の中に取り入れていきましょう。

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